1930年にブラジルに集団移住する人たちの話です。
3部に分かれていて、第1部は移民収容所での様子、第2部は移民船内の様子、第3部はブラジル到着後から入植までの数日についてかかれています。
今年は、ブラジル移民100周年だそうで、各地でいろいろなイベントが開催されています。
戦前の貧しい農家の人たちが、最後の望みを託して移住を決断したのは、現代の我々が海外移住を考えるのとは根本的に違うものだと思います。今と違い、家や田畑を売ることや、お墓などを捨てて移民するというのは大変な決断だったでしょう。
「このままでは生活できない」そんな思いが、政府の移民政策に乗っかる最大の原因だったはずです。政府の移民募集広告では、ブラジルの良さだけが強調され、実態とは大きく違っていたのです。
移民収容所や、船中でブラジルに住んでいる人や、住んでいた人から話を聞き、「もしかすると、ブラジルは思っていたような夢をつかめる場所ではない」と気づきつつも、もう、家も畑も売ってしまった人たちは帰る場所もなく、ひたすらブラジルを目指すしかなかったのです。
第1部、第2部と読み進むにつれて、移民の人たちがだんだん、夢を打ち砕かれてゆき、ブラジルに着いたらすぐに生きる望みをなくすのではないかと思えたのですが、第3部でその心配は消されました。
一部引用します(P249)
ブラジルの生活は日本で想像したような理想の天国でもないし、無限の宝庫をひらく開拓者の野心的生活でもないし、また、易々と大成功できるところでもないことは大分わかった。健康地でもないし楽天地でもない。〜中略〜しかし、誰も今までに話してくれなかった、一度も考えてみなかった別のいいものが、ここには有りそうであった。
この「別のいいもの」が何なのかは、全編を読んでゆくと何となくわかる気がします。この「別のいいもの」は、現代社会の多くの問題を解決するヒントになるのではないかと思います。
生きる気力がない若者達には、生きる力を与えてくれるかもしれません。
いい意味でも悪い意味でもグローバル化した現代社会では、世界中が一体となって社会全体が動いている感があります。
しかし、100年くらい前までは、ほとんどの人たちは、自分の住んでいるところから数キロのエリアがすべての世界であり、そこで起きていることがすべてだったはずです。それが不幸なのか幸福なのか、改めて考えることができる本でした。
ちなみに、私は古本を400円以下で購入しましたが、今Amazonで見てみると、古本が3,491円〜 となっています。ガソリン以上に暴騰しているようです。売ろうかな。
蒼氓 (新潮文庫) | |
石川 達三
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