通訳というのは、別の言語を話す人たちの意思疎通を手助けする仕事です。しかし、言語というのはかなり文化に依存するというか、文化形成の重要な要素であるため、それを訳すというのは、異文化、異なる常識を橋渡しすることです。
米原万里さんは、子どもの頃、チェコスロバキア(当時)の在プラハ・ソビエト学校に通っていました。そこで出会ったいろいろな国の人たちが、それぞれの言語や文化を持っているし、その後、日本に戻ってきた自分が、とても居心地の悪い学校生活や教育制度に疑問を感じたこと。その後、通訳として世界各地に行ったり、人にあったりする中で、私たちが普段、絶対的、普遍的な「常識」と考えていることが、相対的なことであり、かつ逆説的なことであるという米原さんの世界観・人生観を形成したのだと思います。
本のタイトルは「魔女の1ダース」サブタイトルとして「正義と常識に冷や水を浴びせる13章」とついています。これは、1ダースというのも魔女の世界では13を表していることに引っかけたタイトルです。
根底のテーマは非常にシリアスで哲学的なものなのですが、個々の話やエピソード、時々混ざる、ロシアの小話などは、シモネッタの異名をとる米原さんならではの、おもしろネタ満載です。解説者(米原さんが師匠と呼ぶ徳永晴美さん)の言葉を借りると
宝石箱と汲み取り式便槽の中身を一挙にブチマケタ、おぞましい知の万華鏡の世界
だそうです。よく1冊にまとまっているなぁと感心するほど、テーマは多岐にわたります。教育、恋愛、国際政治、経済、文化、通訳・・・などなど、全てが自分の体験を元にした、自分の考えがあるところだけでもすごいと思いますし、それが、いわゆる「常識」にとらわれていないのも興味深いです。
私も、一応海外で生活をした経験があります。そのときに、日本では考えたことのなかったことを、考えるきっかけをもらいました。人種、宗教、少数民族や少数派のこと、いろいろな人の歴史観、人生観・・・などなど。もちろん、私が見たり体験したことなど、世界全体で見たら、ほんの一部だけです。それでも、日本にいたら気づかないことに多く気づくことができました。
この本を読んで、改めて感じたのは、日本という世界的にはかなり特殊(良い意味でも悪い意味でも)な国の中で、学業に専念させられ受験マシーンとして育てられる子どもが、強くて幸せな人間になれないだろうという不安です。
先日、知ったのですが、うちのような田舎でも(田舎だから?)中学校に入ったらほとんどみんな塾に通って受験勉強しているのだそうです。とても衝撃的な事実でした。
うちの子ども達は、塾に行かなくても入れる高校、入れる大学に行って、強くて幸せな人間になって欲しいと思います。少々数学ができなくたって、紅葉した山を見て「きれいだなぁ」と思える心を持っていた方が、よっぽど幸せだと思います。
若い時期に努力をして得るべきものは、学歴だけではないはずです。周囲の人を幸せにする力、周囲の人を元気づける力などは、学校では教えてもらえません。そして、何より自分が幸せになる力も。
だいぶ、話が横にそれましたが、いろいろ考えさせられる本でしたし、私がこれまでに読んだ本の中でも、かなり上位に入る「おもしろい本」でした。
魔女の1ダース―正義と常識に冷や水を浴びせる13章 (新潮文庫) | |
米原 万里
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