2007年に発売された「雲を掴め」の続編です。「雲を掴め」は、1983年に和解が成立したところで終わったのですが、実際にはその後で、さらに厳しい交渉があったのでした。
私が所属していた部門は、この小説の舞台となっている部門で、ちょうど私が入社する直前までが、最も激しい交渉が行われていた時期でした。
しかし、当時の私は全くこんな交渉が行われていて、こんなに絶体絶命な状況にあったとは夢にも思っていませんでした。交渉は完全に秘密裏に行われていたし、裁判で不利になる可能性のあることは一切禁止、交渉していた部門の責任者ですら、弁護士から状況を聞いていなかったくらいなので、私が全く知らなかったのも当然です。
でも、私が入社した頃の上司や先輩は、小説内に登場していたり、調査に協力していたりしていたようで、時々、断片的に聞いていた話の意味がこの小説を読んで分かりました。
激しい対立をしながらも、個人的には一目を置き信頼している仲間と必死に交渉をし、ギリギリのところでお互いに納得し、お互いにメンツを保つ和解をしたわけですが、結局のところ、メインフレームの時代は終わり、両社とも赤字に転落し、事業は大幅に変更されました。両社の一番の稼ぎ頭で、花形だったメインフレーム事業は、今では小さな古い事業部となっています。
雲を掴もうと必死だった富士通が、その雲の果てに見たものは・・・。結局、雲というのは掴もうとしても掴めないし、雲の果てには、さらに雲があるのかなぁと思います。
前回も書いたのですが、1980年代にメイフレームのソフト開発に携わっていた人には、とてもオススメです。懐かしい言葉や状況がたくさん出てきます。
あと、富士通という会社に興味のある人にもオススメです。野武士と呼ばれた富士通とは、まさにこの本に出てくる技術者達だと思います。
そういうことに、あまり興味のない人にもオススメです。フィクションの経済小説としても十分おもしろいと思います。
雲の果てに―秘録 富士通・IBM訴訟 | |
伊集院 丈
日本経済新聞出版社 2008-12 おすすめ平均 |