転落エリートの私を救った世界最高の仕事 というサブタイトルが付いているこの本は、所謂勝ち組のエリートが、60才を過ぎてから転落し、スターバックスで働くようになり、そこで生きる意味や、仕事の意味を発見する話です。トムハンクスが映画化するらしいです。
全体的な構成としては、広告代理店で大きな仕事をドンドン成功させていた頃を回想しながら、スターバックスでの仕事やそれに対する思いが書かれています。
広告代理店で世界的な企業を相手に何億ドルという契約をする話と、1杯数ドルのコーヒーを売る話が対比されたりする感じです。大きな仕事ができて、良い給料がもらえるが、生活の何よりも仕事を優先させなければいけない元の職場と、その人の生き方を優先できるスターバックスという対比も多々見られます。
スターバックスの宣伝本か、と思えるほど、スターバックス(職場として)を賛美しすぎ感はあります。
それでも、60才を超えてそれまでの人生観を大きく変え、本当の幸せを手に入れた人の話として、充分楽しめる本です。
印象に残った話は、転落後再婚した相手との幼い子供の面倒を見ているときの
わたしは、ほかの子供たちが新たな驚きを知る瞬間を見ることができなかった。(中略)しかし、いま、ふたたび父親になる機会を与えられた。
という部分。エリートとして働きまくっていた頃の、子供たちは気づいたら大学生になっていて、子供の成長の瞬間を見る事ができなかったというのです。もちろん、彼が家庭を顧みず働いたために、子供たちはお金のかかる大学に行けたのも事実です。
でも、ちょっとした子供の成長を感じられる幸せを感じられないのはとても不幸です。
白人のエリート社会に居て、心の中で蔑んでいた貧しい黒人たちのことなど全く理解していなかった彼が、自分よりもずっと年下の黒人店長の下、多くの若い先輩たちに助けられながら、トイレ掃除、レジ打ち、ドリンク作りなどを覚えてゆきます。その中で、自分が持っていた差別や偏見の気持ち、そして、仕事観や人生観が大きく変わってゆき、彼はこの上ない幸せな人生を手に入れることができたのです。
エリートだった頃と比べれば、大きな家も、豪華な旅行も、多くの部下もいない生活ですが、それと引き替えに、仕事ができる悦び、それが人に喜ばれる悦びを得ることができ、子供たちともよりよい関係になれた幸せな人生を。
文章そのもののおもしろさという点では?ですが、内容としてはとても興味深い話でした。