【本の感想】雲を掴め−富士通・IBM秘密交渉−(伊集院丈)

率直な感想として、おもしろかったです。

 

内容は1980年代にあった、富士通とIBMの大きな紛争の最初の数年をベースとした小説です。小説ですが、かなり事実に基づいたものです。

 著者は、実際に当時富士通で対外事業部の事業管理部長だった人です。この小説に出てくる最初の和解から、実際は10年以上紛争は続き、最終的に紛争が終了したのは、1997年です。

 

実は私は1989年1992年まで富士通のソフトウエア事業部におりました。そこは、まさに小説の中に出てくるIBMメインフレーム互換のOSを開発していた部署です。小説の中に出てくる事業所や会議室など自分も入ったことのある所であり、そこからみえる風景などの描写は、自分が見ていたものと同じなのかなぁとと考えると、感情移入も進み感動も倍増です。

 

もちろん、私がいた頃は、既に大方の紛争は決着がついており、しかも、新人で右も左も分からない私は、先輩や上司に言われるままに仕事をこなすのが精一杯でした。当然、それまでにこんなドラマチックなことが起きていたとは知るよしもありません。ただ、その頃の記憶としては、とにかくIBMのマニュアルなどを見るのが面倒であったことを覚えています。完全に入退室管理された部屋にある、資料を見るためには、いつ何をどれだけ見たのかを記録する必要がありました。

当時聞いた先輩の話では、以前はもっと面倒で、ツアー旅行のように、その部屋に入るためには、法務部(?)の案内係に連れて行ってもらう必要があったそうです。その連れて行ってもらえる時間が1日に何回か決まっていて、その時間に乗り遅れると翌日まで部屋に行けなくなってしまうのでした。

それらは、全てIBMとの交渉で不利にならないように厳重に管理していたのでしょう。その後正式にIBM資料へのアクセス方法が取り決められて、それに従っていたのが私が体験した資料の閲覧ルールだったのだと推測できます。

 

当時(今でも)日本人は、交渉が下手でアメリカ企業との交渉では全て失敗(相当な譲歩)してしまっていると考えられていますが、実際は、こんなに、スゴイ交渉をして権利を勝ち取っていたのだと知って嬉しくも思います。

かすかな記憶ですが、会社で先輩に

「富士通は相当お金を取られましたね」

と聞いたときに、こんな金額ですんだのはもの凄くよかった。お金以外は富士通の主張を通しているし・・・というような返事をもらったように覚えています。

 

事実や過去の記憶と照らし合わせて、私の場合はとてもおもしろいと感じたのですが、仮にこの業界について知らない人でも、社運を賭けたギリギリの交渉小説としても、充分おもしろいと思います。

 

雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉
雲を掴め―富士通・IBM秘密交渉 伊集院 丈

日本経済新聞出版社 2007-11
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